引き続き、映像作品紹介していきます。
今回は2019年公開映画から。
多くは2020アカデミー賞ノミネートもしくは受賞作品です。
去年も数多く鑑賞したものの(番組では色々とご紹介させていただきましたが)ブログに書き残していなかったので、記録も兼ねて。
既にオンラインで配信が始まっているものもあるので、気になったものあればよかったらご鑑賞ください。
(基本情報とあらすじは端折りますので、あしからず)
2019年公開作品の中で、私が選ぶナンバーワンはダントツで「JOKER」
生涯ベストに入れてもいいと思うほど。
●JOKER (若干のネタバレ含む)
ホアキン・フェニックスの怪演に身震いする。
まるでアーサーという人物が憑依しているかのよう。アーサーそのもの。
他者とうまくコミュニケーションが取れず、社会から疎外され、狂い始める。
その狂気の中に見えるのは人間らしさ。
(アーサーの笑いが止められなくなる症状の中に悲しみが潜んでいるように)
社会の歪みが生み出した、人間の歪み。アーサーは歪んだ社会の犠牲者。
誰もがアーサーにジョーカーになりうる、ということだと思う。
終始アーサーが愛しくてたまらなかった。
少々危険な見え方かもだが、覚醒したアーサーはまるで憧れのロックスターのようだった。
私の思うロックスターとは、情けなさや惨めさ不器用さまでも内包したその先にある輝きを持っている人。ただかっこいいだけではロックスターとは言えない。人間のダメな部分を持っているからこそロックスターになれる。
歓喜のダンスをしながら階段を降りてくるシーンは繰り返し見た。(映画史に残る名シーンかと!少なくとも私の映画鑑賞史においては脳裏に焼きついて離れない名シーン)
アーサーの着用している深いえんじ色のスーツの着こなし(ブルーのカッターシャツにオレンジのベストとの配色)が最高にいかしていて、くわえタバコでのダンス、流れる音楽と、徐々にスローモーションになっていく様。何もかもがクールでかっこいいのだ!
また、サントラが素晴らしすぎる。
手がけたのはアイスランド出身の女性チェロ奏者、ヒドゥル・グドナドッティル。この作品でゴールデングローブ賞もアカデミー賞も受賞している。
ラストの描写の解釈については様々あるようだが。
トッド・フィリップス監督がラストシーンについて語ったところによると「最後に精神病院の部屋で見せるあの笑いだけが、彼が唯一心から笑っているシーンなんだ」とか。
つまり、そういうことなのか。何もかもがひっくり返された、と考える方がしっくりくる。のはよく理解した上で、でも私は”ジョーカーは実在する”と考えたいのだ!
●1917 命をかけた伝令
この作品の目玉は何といっても「全編ワンカット」の映像。
(誤解なきよう正確にお伝えすると、長回しのシーンをいくつか繋いだ”まるで全編がワンカットで撮影されたかのような”映像)
とは言え、ほとんど繋ぎ目はわからない。冒頭からラストまでほぼワンカットの映像だ。
この映像技術がすごいのだ!一体どうやって撮影したのか凄すぎてわけがわからない。
兵士の目線での長回しなので驚異の没入感!
「え?!これどうやって撮影してるの?」と驚きの連続。(そういう意味では撮影方法を気にしてしまって没入できてないわけだが、映画の世界の中に戦場の中に入り込むという意味では間違いなく超没入だった)
兵士が戦場で見る光景を、私たち観客も同時に見ながら、共に経験する。
まさに「体験する」戦争映画と言っていいと思う。
正直、精神的にも肉体的にも、かなりの疲労感を味わった。
伝令を預かった兵士が危険にさらされながら任務を遂行するまでを描くが、もちろんその過程には様々な人間ドラマがある。
戦争がいかに恐ろしいものであるか、過酷なものであるか、そして間違っているか。これを学ぶためには他にない作品。知る意味がある。つまり多くの人が観るべき作品。
この作品が語ることはとても多い。
●ジョジョ・ラビット
こちらも戦争作品。だが、作風はガラッと変わる。
タイカ・ワイティティ監督の、ユーモアセンスと巧みな演出力で魅せる。
監督自らアドルフ・ヒトラーを演じている。(監督にはユダヤ系の血が流れているそうで、そんな監督がヒトラーを演じることに皮肉が込めているそうだ)
これほどまでにコミカルにナチスドイツを描いた作品が他にあっただろうか。
ブラックジョークからキュートなジョークまで。
上映中、ほぼ笑っていた。(もちろん目を背けたくなるシリアスで残酷なシーンもある。が、そんなシーンでも描写はあくまでもポップだった)
重いテーマを最大限のユーモアで描く。
ユーモアで語るからこそ、逆にその裏にある揺るがないメッセージが浮かび上がってくる感じがした。
主演のジョジョ役は11歳のローマン・グリフィン・デイビスくん。天才。彼の演技なしには成り立たない。空想上のお友達ヒトラーとのやりとりなどは名人芸の域だった。
中でも強烈な印象を残すのが、ジョジョの母役スカーレット・ヨハンソンの名演。明るくパワフルで愛と正義に溢れた強い母。その裏側の悲しみまで、見事に演じている。
劇中で”靴ひも”が重要なキーワードになるのだが、何の因果か、以下に紹介する「マリッジストーリー」でもヨハンソンと”靴ひも”が大きく意味を持つ大事なシーンがあり、これにはぞくっとした。
こちらもサントラが素晴らしい。
デヴィットボウイの「HEROS」やビートルズの「I Want To Hold Your Hand」などが使われている。このテーマの作品に、名ロックナンバーを添えるあたりの外しが、監督の粋とセンスを感じた。
●マリッジ・ストーリー
アダム・ドライバーとスカーレット・ヨハンソンの演技が素晴らしすぎて。
夫婦ゲンカのシーンなんかはリアルすぎて見ちゃいけないものを見てるような気持ちに。怖かった。。それほど名演技だった。
アカデミー賞で助演女優賞を受賞した女性弁護士ノラを演じたローラ・ダーンを始め、とにかく実力派俳優ばかりが揃っている。それゆえのリアルさかも。
価値観や生活のルールなどアメリカっぽいな〜と思う部分も多々あったが、すれ違う二人の心の機微は万国共通であるからして、十分共感できた。
時には過酷で重い離婚劇なのに、結婚ていいなと思わせてくれる。それに尽きる。人肌感と温もりがあるといいますか。不思議な離婚映画。
冒頭とラストにあるメモのシーンは、涙がちょちょぎれるかと思った。
上にも書いたが、"靴ひも”のシーンは印象的。いいシーンだった。
●イエスタデイ
『もし自分以外の誰もビートルズを知らない世界になってしまったとしたら?!』
ビートルズ愛に溢れている。
かわいくてあったかいラブストーリー。
ビートルズの音楽を通して、描くのは友情、愛、夢、人生。
まず、ビートルズにまつわる小ネタが楽しい。
「ビートルズが存在しない世界ってことは・・このバンドもいないってこと?!この商品も生まれてないってこと?!」
細かな小ネタが随所に散りばめられている。
ニヤニヤしてしまう設定、仕掛けが多数。
セットの隅々まで見逃さないようにした方がいい!
それから、エドシーラン(本人役で出演)の登場シーンは見所。
例えばエドのスマホが鳴るシーンでは「え!その曲を着メロにしてるの?」とか。笑える。
もちろん圧倒的な歌唱シーンもあり。
ビートルズを知らない世代にも親しんでほしいし、全ての音楽ファンが楽しめる作品。
●ロケットマン
音楽映画をもう一つ。
エルトン・ジョンの半生を映画化。
エルトン自身が制作総指揮を務める。伝記的なものは本人の死後に作られるのが常だが、生ける伝説がご健在のうちに映画化ってのは非常にレアパターンでは?
監督は「ボヘミアン・ラプソディ」のデクスター・フィッチャー監督。と言えば、だいたい察しがつくと思うが、音楽シーンの描き方はさすが。アングル、演出、完璧。
本人監修というだけあり。包み隠さず、誇張もない、嘘もない、ありのままのエルトン・ジョンがスクリーンに映し出されていた。
映画は、エルトンがアルコール ドラッグ ショッピングなどの依存症から立ち直るためのグループセラピーを受けているシーンから始まり、本人が子供の頃の話から半生を振り返る形で回想されて進んでいく。
ラストシーンを見て、この映画自体がエルトン本人にとって一種のセラピーだったのでは?と思った。
幼少期の経験、親子関係、他者との関わりがいかにその人の人生を決定づけるか。影を落とすか。ただ、それはいつでも変えられるのだということ。その影響を認め受け入れれば、いつでも望む人生へシフトチェンジできる。エルトンの栄光を手にした裏で本当に愛されたい人に愛されてこなかった悲しみに満ちた半生から、私はそういうメッセージを受け取った。
私たちにも、自分を愛するためのヒントをくれる。
エルトンを演じたのは「キングスマン」シリーズのタロン・エガートン。当初歌唱シーンは吹き替えが予定されていたが、エルトンをも唸らせる歌唱力で結局全編タロン本人の声で歌い上げることになったとか。タロン歌唱でのサントラも出ているが、これが素晴らしい。
ちなみに、派手なステージ衣装でおなじみのエルトンだが、衣装も全てライブで着用した本物を再現しているそう。
ステージシーンを含め、キラキラした色彩に浸れる作品でもある。